2024年4月25日木曜日

今月の旬

               5月の旬

                  アワビ

               薬剤師 橋本紀代子

 お祝いなどの贈答品の包装に使う熨斗。もともとはノシアワビを用いていました。別名を「打ちアワビ」といい、戦国武将が打ち勝つように縁起をかついで食したといわれます。

 生で食べるとコリコリした歯ごたえがあり、加熱すると特有のうま味が出てきます。

 2022年、クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビの3種類が国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されました。密漁、乱獲、気候変動などで激減しているためで、早急な対策が待たれます。

 天然アワビの漁獲量は1970年をピークに現在は8分の1に。

 北海道や三陸海岸でとれるエゾアワビなどは、養殖もおこなわれています。

 漁獲量が多いのは、岩手、千葉、三重などの各県です。

 うま味のもとはスタミナがつくといわれるアルギニン、タウリン、グリシン、ベタイン、グルタミン酸などです。目の健康に良いビタミンAやビタミンB1、B2、カルシウムも含まれます。

 民間療法では、煮て食べると産後や手術後の体力回復に効果があるとされています。

 漢方ではアワビの殻を石決明といい、粉末にして目の病気、膀胱炎、血尿などに用いる漢方薬に配合し、煎じて飲みます。 

おいしい食べ方

  身も殻もたわしでこすり、水洗いして汚れを落とします。

 刺身はスプーンなどで貝柱をはがして身を取り出し、肝とくちばしを取り除き薄く切ります。肝は砂袋を除いて5分ほどゆで、刺身に添えます。

 酒蒸しは酒大さじ1/2を振りかけて蒸すだけです。

 もち米にアワビや山芋を入れたかゆは糖尿病の養生食。

 シイタケ、セロリを加えたスープは美味。大根おろし、しょうゆ、みりんで甘辛く煮付けても。

 アワビとホウレンソウの甘酢あんかけも人気の一品です。

   【「食べもの通信」5月号より転載】

 今月の旬

2024年4月2日火曜日

4月の旬

                 4月の旬

                    アサリ

    
        薬剤師 橋本紀代子

  ゴールデンウイークの潮干狩りといえばアサリです。「漁る」「浅い+砂利」などから名付けられたといわれます。

 貝殻の表面は縦横にスジがあり、模様も多様です。身がプリプリしていて、うま味があります。

 旬は春から6月にかけて。関東以南では秋にも産卵するため910月も旬です。

 日本のほか、中国、ロシア、朝鮮半島、インドシナ半島、フィリピンなどに広く分布しています。

 1980年代には13万トン余りあった漁獲量は5000トン以下に減少。激減の原因は乱獲、水質汚染、温暖化の影響のほか、さまざまな要因があるようです。

 漁獲量は愛知県が5割、北海道が3割を占めます。国内流通量の9割は中国や韓国などからの輸入です。

 うま味のもとはコハク酸のほか、多様なアミノ酸類などです。鉄や亜鉛などのミネラル分も豊富です。また、造血作用のあるビタミンB12の含有量が多く、動脈硬化や高血圧を予防するタウリンも多く含まれます。

 漢方ではイライラを鎮め、喉の渇きを潤すとされています。

おいしい食べ方

 砂抜きは、底が平らな容器にアサリを並べ、ひたひたの塩水(1に対し30gの塩)に浸けて、暗くして数時間おきます。使う1時間ほど前にざるにあげて水でよく洗い、塩水の飛び散りを防ぐため一回り大きなボウルにざるごと入れます。

 殻のまま水と鍋に入れて火にかけ、沸騰して貝が開いたらOK。みそを入れればアサリのみそ汁になります。すまし汁、酒蒸し、つくだ煮、パスタ、クラムチャウダーなどにもおすすめです。

 深川飯(丼)は、もともとはアサリのみそ汁のぶっかけご飯で、漁師の朝ごはんでした。いまでは、アサリ、厚揚げ、長ネギをしょうゆとみりんで煮込み、ご飯にかけたものや炊き込みご飯にすることが多くなっています。

   【「食べもの通信」4月号より転載】

 

2024年2月29日木曜日

3月の旬

                 3月の旬

                    サワラ(鰆)


               薬剤師 橋本紀代子 

 漢字では魚へんに春と書きます。細長いという意味の「狭腹」から、サワラとよばれるようになりました。体長は1mほどになるものもあります。

 味は淡泊で身は軟らかく、独特のうま味があります。

 成長とともに名前が変わる出世魚で、関東では体長50㎝くらいまでを「サゴシ(狭腰)」、50㎝以上をサワラとよびます。関西では「サゴチ」「ヤナギ」「サワラ」の順に大きくなります。

 回遊魚なので、通年出回ります。俳句では春の季語。関西では「春告げ魚」としてお祝いの膳に欠かせません。関東では冬の「寒鰆」が、脂が乗っていておいしいと人気です。漁獲量が多いのは、福井県、京都府、石川県などの日本海側です。

 筋肉、内臓、爪、髪などを作るたんぱく質が多く含まれます。また、生活習慣病予防に役立つオメガ3系の必須脂肪酸であるDHAEPAも豊富です。ビタミンB2、ビタミンD、味覚を正常に保つ亜鉛を含みます。カリウムの量がとくに多いのも特長です。

 漢方では、元気が出て冷え症にも効果があるとされています。 

おいしい食べ方

 新鮮なものは刺身やたたきにします。

 「岡山ばらずし」は瀬戸内海の魚介と旬の野菜を彩り良く盛り付けたお寿司で、サワラの酢締め(酢〆)が必須です。

 塩焼きは、少し塩を振って時間をおいてから焼き、しょうゆをたらすとおいしさが増します。

 しょうゆ漬けは、ポリ袋にサワラ3切れ、酒・しょうゆ各大さじ2を入れて半日浸けてからグリルで焼きます。また、西京みそ(白みそ)漬けも絶品です。

 天ぷら、ムニエル、フライなど、幅広い料理に向いています。

 真子(卵)の煮付けは各地の郷土料理になっています。だし汁、酒、しょうゆ、みりん、薄切りショウガに落としぶたをして20分ほど煮ます。白子はみそ汁に。

   【「食べもの通信」3月号より転載】

 

2023年12月12日火曜日

11月の旬

               11月の旬

       クルマエビ

             



            薬剤師 橋本紀代子

2023年10月2日月曜日

10月の旬

                 10月の旬

               スルメイカ

             薬剤師 橋本紀代子 

 スルメイカの干物をストーブで炙り、おやつにしていた子どものころ。「スルメ」は駄菓子屋でも買える庶民の味でした。

 日本のイカの総漁獲量1位はスルメイカとはいえ、深刻な不漁が続いています。

 スルメイカは、東シナ海からオホーツク海まで海流に乗って回遊します。地域によってとれる時期が異なるので、通年出回りますが、初夏から秋口に多く収穫されます。集魚灯が水平線に連なる漁り火は風物詩です。

 脂質の含有量が低く、低カロリーという特長があります。

 うまみのもとはグリシン、アラニン、プロリンなどのアミノ酸類です。スルメの粉にも多く含まれるタウリンはアミノ酸の一種で、コレステロールの沈着を抑えて動脈硬化を予防します。

 漢方では、イカの身は血を養い生理不順にも良いとされます。手術後の体力の衰えや耳鳴りに効果があり、腰や脚に力をつけるとされています。

おいしい食べ方

 とれたては身が透き通り、コリコリとした食感です。刺身や細切りの「イカそうめん」にして、ショウガじょうゆでいただきます。生食する場合は目視で寄生虫を必ず除きます。アニサキスはマイナス20度以下で24時間以上冷凍すれば、安全に食べられます。

 サッとゆでて、野菜と一緒に酢のものやサラダに。

 一夜干しは網で炙ってショウガじょうゆやマヨネーズで。七味トウガラシを振りかけると、一段とおいしくなります。イカリングなどの揚げものにも。

 ゴーヤ入りのチヂミやお好み焼きにはゲソが合います。

 スルメイカのワタは大きいので、ラップに包み冷凍します。刺身のように切ってワサビじょうゆで食べます。ワタに塩を振って水分を抜けば、塩辛に。

 スルメとコンブを細切りにし、たれに漬けた松前漬けも美味。

   【「食べもの通信」10月号より転載】

 

2023年7月25日火曜日

 江戸 壊れたら何でも直す


元都教組委員長 
工藤芳弘

 

江戸時代は今と違って物も資源も限られていました。そのために物が壊れても新しく買い換え替えたりすることはあまりなく、修理するというのが当たり前でした。「もったいない」というのが江戸の考え方だとも言われますが、「修理したほうが安い」からという理由で自然にそうなったのではないのか。江戸の庶民の気質を考えると、その方がふさわしいような気もします。

江戸の町には、日用品に対応した様々な修理屋が存在していました。江戸がリサイクル社会だということについては、これまで何度か触れてきましたが、江戸では壊れることを前提に物が作られていたのではないかとさえ思ってしまいます。

瀬戸物修理の「焼継屋」

 例えば毎日使う食器類。江戸では陶器全般を瀬戸物と呼んでいました。瀬戸物は、使っているうちに欠けたり割れたりします。現代社会では、割れた食器はゴミとして回収されるのが日常です。

しかし、江戸では大きな籠を天秤棒に下げて「焼継屋」が廻ってきました。白玉粉という鉛ガラスを溶かしたもので割れた瀬戸物を接着して焼き直す修理屋です。

生漆を使った「金継ぎ」は、今でもよく知られていますが、仕上がりまでに一か月もかかります。焼継はすぐに修理できるので、気の短い江戸っ子の気質に合っていたのかもしれません。

金属修理の「鋳掛屋」

江戸時代の鍋や釜はすが入りやすく、細かい穴が空くことがよくありました。しかし、金属製のものは非常に高価だったため、買い換えるのは江戸庶民にとって簡単なことではありませんでした。

当然ながら、ここでも「鋳掛屋」という修理屋が繁盛します。「鋳掛屋」は七輪や鞴(ふいご)を携えて廻り、その場で、鍋や釜の修理を行っていました。

桶や樽修理の「箍屋」

「箍(たが)を外す」という言葉があります。「規律や束縛から抜け出す。羽目を外す」の意味で使われますが、箍というのは、桶や樽の周りを締める竹で編んだ輪のことです。 

しかし長い間、桶や樽を使い続けていると箍は緩み、板が外れてしまいます。この箍の付け替え業が「箍屋」です。

木の桶や樽は、今では珍しいものになっていますが、「箍屋」という商売は今もあるのではないでしょうか。

また、「緩んだ規律や心持ちを引き締める」ことを「箍を締める」と言いますが、大事なことです。

「雪駄直し」「下駄直し」

江戸の町では雪駄や草履、下駄なども修理して履いていました。修理していたのが「雪駄直し」や「下駄直し」の職人です。「雪駄直し」は、鼻緒のすげ替え、裏革の剥がれや踵の打ち替えなどを行っていました。裏革まで減ってしまうと雪駄や草履がだめになってしまうのです。減ってきた踵の部分を替えてもらえば再び快適に履くことができました。

同じ履物でも下駄は、「雪駄直し」とは別の「下駄直し」職人によって行われていました。下駄の歯はすり減ると差し替えます。また、鼻緒もすげ替えをしていました。

この他にも江戸の修理屋は多種多様。切れ味が悪くなった包丁などの刃物を研ぐ「研ぎ屋」、錠前が壊れた時に修理を行う「錠前直し」、算盤の修理、交換を行う「算盤直し」、曇った鏡を磨いて、水銀などを塗って修理する「鏡磨き」、その他にも、「提灯張り替え」「印肉の詰め替え」「炬燵の櫓直し」「眼鏡の仕替え」石臼の目立て」「羅苧(らお)屋」(煙管直し)など、日常生活で使われるありとあらゆる物の修理屋がありました。

壊れてもそれぞれに修理する職人がいた江戸では、物は直して使うということが当たり前のことだったのです。